-クロガネシティ-





クロガネシティは大規模な炭坑を擁する。
町中は道幅が広く、しかし石がごろごろと転がる砂利道で、切り開いた山肌は舗装されずそのままに露出していた。
また至る所に黄色いヘルメットを被った屈強な男も居る。活気的な労働者の町だ。

「なんじゃこりゃ?」
ジュンがまた寄り道をし始めた。
ジュンが興味を持ったのは、地面に突き刺さった、青く細長い筒のようなものだった。
筒の側面には窓がある。
「?」
覗き込んだり手を突っ込んだりとあれこれしているが、使い用途がわからない。
傍らで見守るヒカリに、通りかかった炭坑夫が話しかけて来た。
「それは通風口だよ」
「うわ?!」
窓に顔を近づけていたジュンが飛び退いた。
「か、風が来た!おじさん、これ地下の炭坑に繋がってるの?」
炭坑夫はジュンの驚き様に笑いながら、
「そうだよ。炭坑だけじゃなくて、今は各地方の地下が開発されてるんだよ。
君達の町には無かったのかい?」
と言った。
ジュンはヒカリと顔を合わせると答えた。
「無かったよな」
フタバやマサゴはとても田舎である。地下を開発する前に、街灯を設備するべきだ。
察したのか、また炭坑夫は二人の身なりを見て訊いた。
「君達は旅立ったばかりの、新米ポケモントレーナーかい?まだ子供なのに凄いねぇ。
ここにはジムに挑戦しに来たのかな?」
子供扱いされてジュンは一瞬ムッとしたが、その次の言葉に反応した。
「ジム!!ジムあるのかこの町!!」
あるよ、と炭坑夫が指差す方向を見てジュンは鼻息荒くすっ飛んで行った。
びっくりして目を瞬かせる男に一礼し、ヒカリもすたすたと後を追い歩く。
忙しない男の子に比べ、落ち着き払った女の子の背中を、炭坑夫はポカンと見送った。


ヒカリが追いつく頃には、ジュンは既にジムの中に入り、そして早々とうつむき加減に出て来ていた。
顔が険しい。
「どうしたの」
「・・・な、名前が・・・」
ジュンの握りしめた拳がプルプルと震えている。
顔を覗き込もうと首を傾げると、その前にジュンはバッとヒカリの方を向き叫んだ。
「コウキの名前が書いてあった!!!!!」
「え?」
意味がわからずヒカリは更に首を傾げる。
ジュンは地団駄を踏んで暴れ出した。
「ジムリーダーの認定トレーナーにコウキの名前があったんだー!
もうあいつここのリーダーに勝っちゃってたんだー!!」
ワー!と騒音を奏でるジュンを眺めつつ、ヒカリは思った。

やっぱりコウキは強いらしい。

ジムと言うものがどれ程の権威と強さを表しているのかはまだよくわからない。
けど、自分達と同い年の子供があっさりと適うようでは、ジムバッチなんて誰が欲しがるだろう。いや、価値ある物だと言う事は十分に承知している。
だとすればやはりコウキが尋常ではないのだ。

道中、ヒカリもジュンも、何人かのトレーナーに勝負を挑まれた。
しかし彼らはまるで紙のように弱かった。それほど場数を踏んでいない二人でさえ勝てる程に弱かった。
コウキの戦闘を見た時のような、背筋に来る緊張感。
彼が声を発する度に空気へ浸透する、独特の雰囲気。
そんなものは微塵も感じられず、挑戦者達は、感情的で、戦略に欠けていた。
ヒカリは天性の感覚で、ジュンは持ち前の前向きさと、後半は努力値も相まり勝ち抜いて来た。

コウキにあって、他のトレーナー達に無いもの。
それが強さを裏付け、こうやって形に現れた。
ヒカリにとって、彼が既にジムリーダーに勝っていたことは予想の範囲であった。

ジュンが渋々歩き出す。
ジムへ突っ込んで行ったはいいものの、ナエトルの回復を優先させることは忘れていなかった。
ヒカリも横に並んで歩く。チラとジュンの顔を見る。
顔は相変わらず険しいが、悔しさよりもやる気で燃え上がっているようだった。

ジュンは?

ジュンの戦闘を見ている時もやはり、コウキに感じたのと同じものはない。
逆に、胸に何か、むず痒い感覚を覚えた。
それは特に、バトルに勝ってジュンの懐へ飛び帰って来たナエトルを、満面の笑みで抱きしめ可愛がる様子を見た時だ。
ヒカリはそっと、あばら骨の浮いた自分の胸を触る。胸骨のデコボコが指の腹に撫ぜられた。


薄暗くなった町の外れに、センターが見えた。
























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