-クロガネゲート-





ヒカリはコウキを思い出す。


「うわー!」
振り返ると、ナエトルを抱えたジュンが全力で走って来た。泥だらけである。
二人は別行動でクロガネゲート内のフィールドワークをしていた。
と、言ってもジュンはナエトルを鍛えることに夢中である。この付近で出るポケモンの殆どは、ヒカリが捕まえた。
「大丈夫?」
ジュンはヒカリの横を過ぎ去り、2、3m手前まで走ったかと思うと大の字に倒れ込む。
「ひ、酷い目にあった」
様子からすると、レベル上げに熱中するあまり、回復薬が尽きたことに気づかないまま深入りしてしまったのだろう。
「イシツブテばっかりだから、大丈夫だと思ってたんだ。 でも急にズバットが出て来てさ・・・こうも相性が悪いとは思わなかったぜ」
ナエトルも横でひっくり返り、ぴくぴくしていた。
ズバットはコウモリの容姿をした飛行タイプのポケモンである。草タイプには確かに難しい相手だ。
ヒカリは自分の手提げバッグから傷薬を取り出し、ジュンに差し出した。
「サンキュー」
息が整ったのか、ジュンは元気を取り戻し起き上がった。
ナエトルに傷薬を塗るが、まだフラフラとしている。ズバットの超音波にやられたらしい。
「まだ混乱してるや」
「いったんボールに戻してみたら」
ジュンは振り返ってヒカリの顔を見た。
「ん??どうして?」
「私の時はポケモンの交代をしたら治った。混乱したらボールに戻すといいんだと思う」
ジュンが「へー?」と半信半疑ながらもそうすると、言われた通り、ナエトルはボールの中で落ち着きを取り戻したようだった。
「凄いな!思いつかなかったぜ」
目を丸くして喜ぶジュンに、ヒカリが言う。
「捕まえたムックルは使ってないの?」
その言葉にジュンは思い出したようにベルトからモンスターボールを取り出した。
「だって洞窟の中じゃあ相性が良く無くてさ!でも確かに、ナエトルばっかり構い過ぎちゃったかもな。
湖で襲って来た時はムカついたけど、自分のポケモンになると可愛く見えるし・・・大きくなったら格好良い鳥になるかも?」
笑顔でボールの中のムックルを見つめる。
ジュンは基本、動物が好きだった。

ポケッチを貰った後コトブキに泊まった二人は、起きると早速ポケモン収集に繰り出した。

初回の捕獲はてんやわんやしたものだ。
彼は付近の草むらにコリンクの姿を見つけるなり、いきなりボールを当てつけた。
コリンクは当然怒って襲いかかる。ナエトルを抱えてジュンは右へ左へ逃げ惑った。
ヒカリはコウキが昨日やってみせた手本を思い出し、
「ダメージを与えて弱らせないと」
と、ボールからポッチャマを出す。
研究所以来、ナエトルと違って一度もコミュニケーションの場を与えられなかったポッチャマは張り切って飛び出した。
ヒカリに誉めて貰えるように頑張るつもりなのだろう。
しかし当のヒカリはと言うと、相変わらずの無表情で見下ろしている。

予想外の視線に緊張してしまったのか、ポッチャマは二の足を踏み、見え見えの体当たりをコリンクにしかけてしまった。
素早く避けるコリンクに、ポッチャマは勢い良く地べたへ突っ込む。

ヒカリはコウキの鮮やかな手さばきを思い出す。

まるで他人事のように冷ややかな目で戦況を追うコウキ。
背後のヒカリに話しかけながらの余裕と冷静さ。
ヒコザルにも捕獲する相手にも、自分にすらも感情を表さない声色。

血の温度が下がるような気がした。
「ポッチャマ、落ち着いて」
初めて名前を呼ばれ、ポッチャマはヒカリの顔を凝視した。
「私じゃなくて相手を見て」
ポッチャマは慌ててコリンクに向かい直る。
ヒカリの声は静かだった。聴こえた相手に温度まで伝わるようだった。
ポッチャマは取り憑かれたように冷静になり、逆にコリンクは魅入られたように固まってしまう。

コリンクはあっさりと捕まった。
もみくちゃになったジュンは、一部始終を見て唸った。

ひょっとしてヒカリは、凄く才能があるんじゃないのか?

普段から何があっても動じない奴ではあったが、それにしたってこの落ち着き払った態度!
無言でポッチャマをボールに戻す様は、いっそ冷徹にさえ見えるから少し困るが・・・
ボールを拾うヒカリの細い指先が、ひっそりと緑の光を宿すのに、ジュンは見とれた。
コリンクを納めたボールをじっと見つめていたヒカリが、不意にジュンに顔をやる。薄く笑っていた。
「・・・これでいいかしら」
ハッとして、ジュンは草むらから飛び出し駆け寄る。
ボールを覗き込むと、コリンクが二人を見上げてるのがわかった。
「ヒカリ!ホントに初めてなのか?!」
「うん」
「お前凄いなぁ」
ジュンはむずむずとした喜びに破顔し、今度は自分も、と気を取り直した。

そうして、このムックルを捕まえるのに時間はかからなかった。
ヒカリ程速やかにはいかなかったものの、ジュンは自身も跳びはね、転び、ナエトルをサポートしながらムックルを手に入れたのだった。
同時に、バトルの楽しさや達成感を味わったようだ。



腕のポケッチを見やると、夕方の5時を示していた。
「ジュン、そろそろ次の町に移動しましょう」
「うん、そうだな。傷薬じゃなくて、ちゃんとセンターへ行って回復もしてやりたいし。
あとちょっと、野生のポケモンに出くわさないで歩けるかなぁ〜?」
ヒカリは心配そうなジュンに目配せする。
「先に見て来た。すぐそこが出口。それに私のポッチャマはまだ大丈夫」
ジュンは感嘆の声を上げた。行き当たりばったりな自分と違って、ヒカリは計画性がある・・・

二人は洞窟を出た。
夕暮れで赤く染まった空が広がった。
眼下に、一面が露出した茶色い地面、家々の向こう側にそびえる鉄の骨組みやクレーンが見えた。
炭坑の町、クロガネシティである。





















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