-コトブキシティ-





コンクリートで舗装された道路に、円模様を描いて石畳が敷かれた歩道。
ひしめく建物の周りには植え込みが綺麗に整列していた。道路の脇にも街頭が整列していた。
コトブキシティはマサゴやフタバよりずっと発達した、大きな市だった。

「そう言えば俺達って、あんまり大きい町に連れてってもらわなかったよな」
ジュンが物珍しそうにキョロキョロしながら言う。
その足元のナエトルは、トレーナーと違って落ち着いて歩く。と言うよりはぼんやりと遠くを見つめながらだった。
「あなたのお母さんはしょっちゅう誘ってくれたじゃない」
替わってヒカリは興味無さそうに、いつも通りの調子で歩く。
ヒカリの親とは違って、ジュンの母親はジュンに構いたがっていた。
「だってヒカリと遊ぶ約束の日にばっかり・・・」
ジュンの言葉が途切れた。
立ち止まって、ヒカリもその視線の先を見ると、黄色い服の、ずんぐりした体型の男が居た。鼻には赤くて丸い物をくっつけている。
「あれピエロだ!ピエロ!!本物初めて見た!!なんでピエロが居るんだ?もしかしてあれだ、サーカスやるのかな?」
ジュンは早口で喋ったかと思うと、ピエロに向かって走り出した。
親の急な方向転換に、ナエトルはまごついてひっくり返った。また私が起こすのか・・・
道中、ずっと思っていたのだが、この亀は見た目通り鈍臭い。
渋々起こしてやると、ナエトルはジュンの走り去った方向へとのたのた歩き出した。
ヒカリもナエトルに合わせるようにゆっくりと歩き、後を追った。

「何してんの?」
子供に手を振っていたピエロの背後から、ジュンが唐突に質問をする。
振り向いたピエロのメイクが施された顔は、意外と痩せぎすの男だった。服の中に針金を仕込んで、ビール腹に見せているだけのようだ。

ヒカリとナエトルがやっと側まで追いついた時には、既に二人の会話は終了していたようだ。
「ヒカリ!いいこと聴いたぞ!」
ジュンははしゃいで、手に持った紙切れをビラビラと振り回す。
「サーカス?」
「ううん、サーカスじゃなかった!サーカスも見たかったな。
でも見ろよ、コレ!」
手前に、持っていた紙切れをずいと差し出され、ヒカリは覗き込んだ。
2枚の紙には、『引換券』と書かれていた。
「・・何の?」
「ポケッチ!」
ヒカリは顔を上げてジュンを見る。
「CMで見たぞ!ポケモントレーナー専用の腕時計だぜ!
持ってたらきっと役に立つぞ!貰いに行こう」
「ただで貰えるの?」
「うん?うん。タダだって!」

それはなんだか怪しくない?

と返す間も無く、ジュンは「こっちか?」とポケッチの会社を探し出してしまった。
何かに夢中になるともう止まらない。
ヒカリは一瞬考え込んだが、黙ってついて行くことにした。



ジュンは引換券の隅に記載された地図をひっくり返したり戻したり、あれこれしながら先導した。
「ここかな?」
道路が途切れ、開けたスペースに噴水が見えた。青い大きな建物が横手に建っている。
ヒカリは、建物の入り口に男が居るのに気づいた。
ジュンに声をかけようとする前に、彼は敷地に足を踏み入れていた。
すると男が気づいて、寄って来る。
「君」
急に呼び止められ、ジュンは立ち止まる。
男は立ちはだかると、サッと目の前の子供二人を観察した。警備員なのだろうか?
「???」
「ジムバッチを持ってるのかい?」
「ジムバッチ?引換券なら持ってるよ」
ジュンがポケッチの引換券をひらひらと泳がせる。
見当違いなものを出されて、男は逆に戸惑っていた。
「・・・ここはグローバルトレードステーションだよ?」
ジュンは瞬きして、男の言葉を復唱しようとした。
「グロ・・・?」
「ポケッチの会社を探しているんだろう?
君達の探してる建物はもうひとつ上の通り!」
そう締めると男は煩わしそうに、二人を追い払う仕草をした。
「ここは何なの?何で俺達は入っちゃいけないの??」
入るなと言われると、逆に入りたくなる性格のジュンであった。
首を伸ばして建物の中を覗こうとする。
男はうっとうしがり、ジュンの首根っこを掴むと、
「君みたいなジムバッチを持たない子供は入れないの!」
ポイと敷地の外へと放り出した。

ヒカリが駆け寄ると、ジュンは目をパチクリさせている。
「じ、ジムバッチ・・・・」
どうやら悔しがっているようだ。
何か声をかけようとすると、ジュンは立ち上がり拳を握った。
「ヒカリ!俺ジムーリーダーに挑戦してくる!」
ヒカリはあぜんとしてしまった。
こんな些細なことでジムに挑む決意をしてしまうのか?
いや、それよりも。
「あなたのナエトル、レベル6よ・・・」
と、二人はナエトルに目をやろうとしたが、姿が見えない。
辺りを探すと、まだ警備の男の足元に居た。
「あいつ鈍臭いなぁ」
「・・・私達、まだ初心者なんだし、博士から頼まれた収集に慣れたらにしましょう。」
「え? ああ、うん?」
ジュンは言われてようやく、当初の旅の目的を思い出したかのようだった。
同時にヒカリも、ふと思い出したことを呟いた。
「それに、私達よりポケモンに慣れてるコウキがこれから挑戦するって言うんだから」
「え?!」
「兎に角ハードルが高いから、ジムはもう少し後に、」
「そ、そんなの嫌だ!てゆーか」
ヒカリの発言に、ジュンは驚愕の色を露に喰いかかった。

「いつそんな話したんだよー!?」

ヒカリは今朝の事をジュンに話していなかった。
話す必要もないだろうと思っていた。
「あなたを待ってる間、マサゴで話したの。」
「アイツもジムリーダーにこれから挑戦するのか?!」
「うん」
「・・・そうなのか・・・」
考えさせる為の発言だったが、裏目に出たようだ。
ガシ、とヒカリの両肩に手を置くと、真顔になって言った。
「決めた。俺もジムリーダー挑戦する。絶対。」
「・・・」
「ポケモン収集も負けない。絶対。」
ジュンの闘志に火がついていた。本気のようだ。何故そんなに張り合うのだろうか?
ヒカリは視線をナエトルにやった。
ナエトルは警備の男のズボンの裾を食べていた。男は驚いて足をばたつかせている。
まずはレベルを上げなくてはいけない、と、ヒカリはぼんやり考えていた。





























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