-マサゴタウン-





翌日、ジュンがヒカリを迎えにやって来た。
「おはようヒカリ!!昨日は興奮して眠れなかったぜ」
ジュンが伸びをしながら歩く。
足元にはナエトルがのたのたと従っていた。まさかずっと出しっ放しにするつもりなのだろうか。


再びマサゴタウンへ行く道すがら、ジュンが鼻歌まじりにヒカリに訊く。
「お前の母さんなんて言ってた?」
「何が?」
「だって遠出するんだぜ?心配しなかったか?
うちの母さんなんて俺の代わりに焦って荷造りし始めたぜ。むしよけスプレーだかなんだか・・・どうでもいいものばっか集めてさ」
ジュンはその殆どを「いらない」と言い、ショルダーバッグ一つの軽装で飛び出して来た。
実際、彼にはあまり必要性の感じられない物が多かったのだろう。
「あなたが一緒だって言ったら、安心してた。」
「そう?なんか嬉しいけど、あっさりしてるな。」
「放任主義なの」
「でも知らない土地に行くのに・・・・・  あっ!!!!」
ジュンが急に立ち止まった。
後ろをついて来ていたナエトルが、ジュンの足にぶつかりひっくり返った。
ヒカリも立ち止まり、無言でジュンを見やる。
「地図!」
ジュンの顔が勢い良く振り向く。目が飛び出しそうな程に丸くなっていた。
「地図忘れた!地図は大事だ!とってくる!」
マサゴタウンも目の前だと言うのに、ジュンはUターンした。
「マサゴで待ってて!!すぐに戻るから!!」
ひっくり返ったまま置き去りにされたナエトルが、力なく足を動かしている。
ヒカリは暫くその場に立ち尽くした。


マサゴにはポケモンショップがある。フタバには無い。
しょうがないからナエトルを起こし、マサゴに入ったヒカリは暇潰しも兼ねて、旅に必要そうなものを探すことにした。
が、ショップに入る前にヒカリは声をかけられた。
「ヒカリ」
振り向くと、コウキだった。
「・・・コウキ」
呟くように名前を返すと、コウキは目を細めて微笑んだ。
「おはよう。旅立ちには良い朝だね。一人なの?アイツは自分のポケモン置いてどこ行ったのかな」
空を仰ぎながらの爽やかな挨拶と共に、ジュンを「アイツ」呼ばわりする。ナナカマドの居るときとは少し雰囲気が違う。
ヒカリの横でぼんやりとしていたナエトルも、心無しか警戒を表していた。
「ジュンは忘れ物とりに行ったの」
無愛想に答えるヒカリを横目で見やる。コウキは心無しか嬉しそうだった。
「そう言えばポケモンの捕獲方法、知らないんじゃない?教えようか。」
「ここで待つ約束なの。ジュンが来たら一緒に教えて」
「アイツはダメだ」
目が笑っていない。
コウキの「ダメだ」と言う言葉は、単なる仲間はずれの意味ではなく、「ジュンはダメな奴だ」と言っているようだった。
ヒカリは、無表情のままコウキを見つめた。
「おいで。少し話そう」
コウキがニヤリと笑って背を向ける。
ヒカリは、嫌がるナエトルを取り残し、一歩遅れてコウキの後をついて行った。



マサゴから少し歩いた所で、コウキは草むらを掻き分ける。
「君はポケモンが苦手なのか?」
わざと派手な音を立てて物色するコウキの背中に、ヒカリは答える。
「別に」
「嫌いとか、触れないわけじゃないんだな」
草むらから何かが飛び出す。
茶色い、四つ足のポケモンがコウキに襲いかかって来た。
「ビッパか」
呟くと、コウキは腰のベルトのモンスターボールを手にし、中から自分のポケモンを出した。
炎を宿した猿が、ビッパに応戦した。
背を向けたまま、コウキが喋る。
「すぐに慣れる。」
顔が見えずとも、ヒカリにはその表情がわかった。
「君はきっとこいつらを上手く使いこなせる」
きっとその目は笑っていない。
コウキは器用に片手で背中のリュックからモンスターボールを取り出すと、ビッパに投げつけた。
手慣れている。ナナカマドの言う通り、彼は優秀なようだ。

ビッパを捕獲したボールを拾い上げ、コウキは自分のポケモンを手元に戻した。
「よくやった、ヒコザル」
ヒカリは一部始終を黙って見ていたが、コウキが自分に向き直ると、言った。

「鞄をわざと忘れて行ったわね」

コウキの口が、ゆっくりと引きつり、弧になった。
「3匹とも、僕が育てる話になっていた。」
ヒカリの方へと歩み寄る。
「でも正直、飽きてたんだ。育成も、捕獲も。 僕はもうそれなりに進化した、自分に合うポケモンも所持してるんだ。」
冷たい薄笑いで近づいて来るコウキに、ヒカリは動じなかった。
真っ直ぐに見つめ返す。
「僕は、どちらかと言うとこいつらを戦わせるのが好きなんだ。そろそろジムリーダーにも挑戦したい。
もうチマチマとしたポケモン集めはうんざりだ。」
額がこすりつく程に顔を寄せ、コウキはヒカリの眼を覗き込んだ。
「君らが頑張る分、僕はやりたいことに精が出せる」
「そう」
冷静な返事に、コウキは目を細める。
「ヒカリ」
「何」
「早く強くなって。君はなんだか、僕と同じような気がする。」
コウキとは逆に、ヒカリは目を見開いた。
初めてヒカリの感情の揺れを見て、満足そうにコウキは顔を離した。
「・・・どういうこと」
「言っただろ。すぐに慣れる。」
コウキはニヤリと笑うと、背を向け歩き出した。

立ち尽くすヒカリの耳に、ジュンの、ヒカリを探す声が聴こえる。
足元を見やると、コウキが踏み倒した草に靴跡がくっきり残り、静かに光っていた。










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