-研究所-





赤い帽子の少年はコウキと名乗った。
コウキに先導され、二人はフタバタウンの先にある、マサゴタウンへとつれられた。
マサゴはフタバよりも開けた町で、入ってすぐに中規模のポケモン研究所がある。
コウキは慣れた風で、その門戸を開け二人を中に案内した。
実験に使うであろう装置や、電子機器、本の山の奥に、先程の初老の男性は待っていた。

「博士、すみません」
会うなりコウキは、頭を下げて謝った。
「僕のミスでちょっと想定外のことが起こりました。」
博士と呼ばれたその男は、成る程明るい所で見ると、きっちりとした身なりに貫禄の表情を備えた紳士だった。
「何があったのかね」
渋い声と、鋭い視線がコウキに降り注ぐ。
「僕らが去った後、野生の・・・話を聴く限りではムックルが、この方達に襲いかかって来たそうです。
彼らは自分のポケモンを所持していなかったので、その場にあったモンスターボールからナエトルとポッチャマを使って応戦するしかありませんでした。」
「・・・」
「大切な研究に使う為のポケモンだったのに、申し訳ありません」
二人のやり取りを聴き、ジュンがヒカリに耳打ちする。
「やっぱり使っちゃやばかったみたいだな・・・」
そう言いつつも、緑の亀を既に自分のものになったかのようにしっかり抱きしめている。
ヒカリはと言うと、相変わらず青いペンギンに触れようともしない。
ペンギンは、シンジ湖からここまでの道のりを一人で歩いてついて来た。
それでも、自分を呼び出したからなのか、慕うように懸命にヒカリの足元へ従っていた。

「君達」
男がヒカリとジュンの方を向き、声を発した。
突然据わった声を落とされ、ギョッと身構えるジュンとは対照的に、ヒカリは視線だけを男にやった。
男の三白眼が二人と二匹をまじまじ観察する。
ペンギンが怯えたように、ヒカリのふくらはぎにかじりついた。
瞬きをし、男は、今度は考えるように中空を見つめた。
沈黙した男を横目に、コウキが二人に寄る。
「こちらはナナカマド博士と言って、この研究所の設立者だよ。」
ジュンは目を丸くし、「へーえ」と呟く。
「そのポケモン、君のはナエトル、君のはポッチャマって言うんだ。
本当なら戦闘を経験しない状態で研究に臨むはずだったんだけど。
でも、博士は、」
「ううむ。君達に託そう。」
コウキの言葉を遮って、ナナカマドが唸った。
「え?何を??」
ジュンが目を更に丸くして訊く。
ヒカリは、なんだか嫌な予感がした。

「君達にそのポケモンをあげよう。」

やっぱり・・・
「マジで?!」と飛び上がって喜ぶジュンを尻目に、ヒカリは微かに眉をひそめた。
ナナカマドは一息置いて更に続けた。
「代わりに私の研究の手伝いをして欲しい。」
「嫌です」
「いいよっ・・・え?!」
ヒカリの即答に、ジュンは承諾の声が裏返り、ナナカマドは険しい顔をし、コウキは目を細めた。
ジュンはナエトルを足元に降ろし、ヒカリの説得にかかる。
折角一緒に戦えたポケモンだぜ?
可愛く無いのかよ?
一緒にお手伝いしようぜ?
しかしヒカリは心を動かす様子は無い。
その様子を見て、ナナカマドの背後のコウキは、口元が笑んだ。先程のような上辺の笑顔ではなく、心から笑みがこぼれた。

「私、生き物をどう扱えばいいのかよくわからないの」
ヒカリは無表情で、切り捨てるように言った。
それでも食い下がる幼馴染みを見兼ねてか、ナナカマドが割って入る。
「しかしそのポッチャマは君に懐いているようだ。」
ヒカリはゆっくり視線を落とす。
自分のピンクのブーツとは対照的に真っ青な色をしたポケモンは、嬉しそうに見上げてきた。

この目・・・

他人と全く交流を深めたことの無いヒカリには、どうやってその期待の眼差しに応えればいいのかがわからなかった。
これがジュンなら・・・
唯一の親友、ジュンであれば、一方的にまくしたて、引っ張り回し連れ回され、そして唐突に家へ帰って行く。
ヒカリはいつも受け身であった。
ジュン以外に心を許したことが無く、またジュン以外に好意を持ったことが無いヒカリは、

戸惑いを感じていた。

「どうするかね。私よりも、君よりも、そのポケモンがてこでも動かなさそうだが。」
ナナカマドの言葉に追い打ちをかけるが如く、ポッチャマはヒカリのブーツを握りしめてきた。
視線に耐えられずに、ヒカリはナナカマドに向き直ると
「何をすればいいんですか」
と言った。
ジュンがパッと笑顔になり、続いて「ヒカリと一緒なら俺なんでもするぜ!」と叫んだ。
ナナカマドはうむ、と頷くと、コウキに目配せをした。
コウキは背後の机から、手帖のようなものを3つ持って来る。
「これはポケモン図鑑と言って、捕獲したポケモンを記録していく機械だ。 君達にはシンオウ各地に赴き、この図鑑を充実させていって欲しい。」
二人は、その薄く軽い電子手帖を手渡される。
ジュンは早速パカパカと開いたり閉じたり、忙しなく図鑑をいじった。
ヒカリが手帖からナナカマドに目を戻す。
「シンオウ各地って?」
「できる範囲でいい。遠い地方や出向くのに困難な場所はコウキが行く。
コウキはベテランだが、初心者の君達には荷が重いかもしれん。」
その言葉にジュンが顔を上げると、コウキが余裕の笑みを浮かべてヒカリに頷いている。

そして次の一瞬、ジュンに向かって見下すような一瞥をした。

その侮蔑の表情に、ジュンは固まった。
・・・鼻で笑われた?
それを理解するのに数秒を要したものの、ジュンは遅れてナナカマドに喰いかかった。
「俺だって行ける!」
急に激昂したジュンに、ナナカマドよりもヒカリがびっくりした。
「勿論、・・・そんなにやる気があるのであれば、どこまで行っても構わない。
ただしフィールドワークは危険も伴うから、気をつけるんだ。」

ジュンは興奮して、ナナカマドの忠告など耳に入っていないようだった。

















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